鎌倉に幕府を設けて公家主体の世の中に終止符を打ち、初めて朝廷の外から政を司る幕府の最高責任者となった源頼朝。幕府という言葉が実際に使われるようになったのは、実は江戸時代も中期になったずっと後のことらしいですが、いずれにせよそれまでの国家体制とは全く違ったものを作り上げ、その中心人物となったのが源頼朝です。
以後この武家の統治という形態が700年近くも続くのですから、日本の歴史においてこの「鎌倉時代」の始まりというのは非常に重要な転換点であると言えます。そして重要であるからこそ、その経緯は単純な話ではありません。
この時なぜ源頼朝によって歴史の一大転換が生じたのかを知るには、歴史上の区分が鎌倉時代になるひとつ前の「平安時代」の終盤期について理解を深めなければなりません。それに相応しい文献が、「平家物語」です。
平家物語は平安時代末期に権力を恣にした平清盛とその一族の盛者必衰を書き綴ったものですが、実は源頼朝や源氏と平家との戦いについても詳細に描写されています。しかしなにせ古典文学ですから、そのまま原文で読んでみても容易に理解することはできないのが普通だと思います。
しかしそれをまるで現代小説を読むかの如く、割りとすらすら頭に入ってくるわかりやすい現代語訳があるのです。おすすめの逸品を紹介しますので、激動のこの時代に是非興味を持って下さい。
平安時代の終わりと鎌倉時代の始まり
平安時代末期に栄華を極めた平清盛一族を滅亡させ、京の都から遠く離れた鎌倉に日本史上初の武家政権を樹立し、その筆頭となった源頼朝。公家の世から武家の世へ、平家の世から源氏の世へと移り変わったわけですが、一言で片付けられるほど単純な流れではありません。
源頼朝を知るには、鎌倉幕府の事績を綴った歴史書である「吾妻鏡」に頼るのが主流なのでしょうが、鎌倉幕府創設に至る過程をより詳しく知るには、案外「平家物語」の方が役立つかも知れません。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」の書き出しで有名な平家物語は平家の栄華と没落を詳細に描いていますが、それだけではなく衰退し始めた平安貴族や源氏を中心に新たに台頭してきた武士階級たちの人間模様が多く記載されていて、この時代の変遷を知るには最適の史料だと思います。
平家物語と吾妻鏡
平家物語が歴史上の事実を捉えて物語にした軍記物であるのに対し、吾妻鏡は幕府の視点に立って記載された歴史書です。初代将軍源頼朝から第六代将軍宗尊親王までの鎌倉幕府の事績が記されています。
この時代を知る貴重な史料には違いありませんが、将軍記という形式を取ってはいるものの、源頼朝の嫡流は僅か3代約30年で途絶えていますから、決して源一族の華やかな活躍にスポットを当てた書物ではありません。鎌倉幕府は執権政治であり、実際には執権として終始裏から幕府を操った北条家の思惑が吾妻鏡には反映されています。
一方で平家物語はそのように権力者側に与した書物ではなく、平安時代から鎌倉時代に移り変わっていく頃の歴史上の合戦を題材として書き綴られています。それが丁度平家の台頭から滅亡までの時期にあたるため平家物語と後々呼ばれるようになっただけのことであり、決して平清盛の一代記というようなものではありません。
平家一族以外にもたくさんの人物が登場しますし、源頼朝もそのひとりです。そして重要なのは、この物語が史実に即しているということです。
つまり源頼朝が戦いによって平家を潰滅させ新時代を築くに至った経緯が、平家と名の付いたこの読み物を読めば分かってくるのです。平家物語は源氏の物語でもあるのです。
平家物語の現代語訳
しかしながら平家物語を原文で読破するのは、多くの人にとっては難しいことと言えるでしょう。なにせ古典文学ですから、現代小説を読むような訳にはいきません。
直訳の現代語版も幾つか出ていますが、堅苦しい文章でこの膨大な書物を読み通すのもやはり大変なことです。漫画化されたものもありますのでそういったものに頼るのも手段としてはあるでしょうが、ここはひとつなるべく原文に近くてなおかつ現代小説のように容易に読み進めるものが平家物語の真髄を味わうには宜しいかと思います。
さて、そんな都合のいいものなどあるのでしょうか。それがあるのですよ、ちゃんと!
吉村昭著、「吉村昭の平家物語」。おすすめの平家物語の現代語訳はずばり、コレ⇩
吉村昭という著名な作家についてはここで言及はしませんが、こちらも史料に忠実に則った歴史作品を多数残されています。ちょっと厚めの小説を読むくらいの感覚で読破できて平家物語の全容が頭に入ってしまいますから、是非一度手に取ってみて下さい。
この記事のまとめ
- 源頼朝は平清盛と戦い平家を滅亡に追いやって、従来の公家の世の中を終わらせ武家政権を樹立した。
- 平家物語は史実に即した軍記物であり、この頃の世の中の変遷を知るのに適した書物である。
- 平家物語は平家の物語であると同時に、源氏の物語でもある。
- 古典文学である平家物語を原文のまま読破するのは難しいだろうが、吉村昭著「吉村昭の平家物語」は現代語訳でわかりやすいし平家物語の全容をたやすく理解するのにおすすめである。
平家物語は源氏の物語でもあると述べましたが、「源氏物語」となると全く別の作品になってしまいます。源氏物語には源頼朝も平清盛も、一切関わりがありません。
源氏の物語でもある平家物語はノンフィクションの軍記物ですが、源氏物語はフィクションの色恋物です。どうかお間違えのないよう、くれぐれもお願いします。