花まつりにはまつりという名が付いていますが、各地域でよく見掛ける、独特の猛々しさを感じさせる神事の祭りではありません。これは仏事であり、法会としての名前も持っています。
花まつりはお釈迦様の生誕を祝賀する行事であり、お釈迦様の誕生時の逸話に従って、花が飾られ、甘茶が用意されます。仏教系の幼稚園や保育園では、花まつりにちなんだ歌を歌ったり遊戯をしたりして、この日を楽しく過ごします。
楽しめるのは子供だけではありません。名古屋の寺院では、毎年行われる花まつりが異国情緒に満ちていて、大人ですらそのイベントを楽しみにして、わざわざ遠方からでもやって来るとのことです。
実は名古屋が県庁所在地の愛知県は、日本一仏教の盛んな地域なのです。幸福感溢れるネーミングの花まつりについての詳細を説明しながら、仏教通も一押しの花まつりイベントを開催している名古屋の寺院を紹介したいと思います。
お釈迦様の生誕を祝う花まつり
ここでいう花まつりとは、お釈迦様の生誕を祝う仏教行事である花まつりのことであって、桜を愛でる花祭りとは違います。仏教行事の花まつりは毎年4月8日、丁度桜が咲き誇っている時期と重なりますので混同しやすいです。
そこで前者を花まつり、後者を花祭りと表記して区別したいと思います。時期は同じ頃でも、花まつりと桜を観賞することとは、直接的には関係がないことを敢えて冒頭で申し上げておきます。
先ずお釈迦様とは誰なのかということを説明しておきます。これが皆さんなかなか知っているようで知らない、分かっているようで分かっていないのではないかと思うのです。
お釈迦様というのは二重の丁寧表現で、例えば封建時代の領主の殿をお殿様と呼ぶのと同じです。畏敬の念を抱きながらも、ある種の親近感を持ってそう呼ぶのではないでしょうか。
実はこのような丁寧な言い回しだけでなく、呼び名自体が色々あります。釈迦、釈迦牟尼、仏陀、仏、如来、釈迦如来、世尊、ガウタマ=シッダールタ、ゴータマ=シッダッタ、釈迦牟尼仏、釈迦牟尼如来、釈迦牟尼世尊、釈尊、釈迦尊、仏様、そしてお釈迦様、その他まだ幾つもありますが、全て同じ人物です。
お釈迦様とは一体何者なのか、これだけ同一人物を指す名称を列記することではっきりお分かり頂けたかと思います。お釈迦様は仏教の創始者です。
その偉大なる開祖が生まれた日には諸説あるものの、日本では一般に4月8日とされているのです。ですから花まつりというのは、丁度西洋における12月25日のクリスマスのようなものです。
ただしクリスマスはキリストの降誕を祝う日であって、キリストが誕生した日ということではありません。キリストが厩で生まれたことはよく知られていますが、いつ生まれたかは分かっていません。
花に甘茶は必須で時には歌や稚児行列も
お釈迦様はルンビニの花園で生まれました。ルンビニはネパール南部のタライ平原にある小さな村ですが、今では仏教四大聖都のひとつになっています。
花まつりではその花園に見立てて、花御堂という種々の花で飾りつけた小さな堂を用意します。それが花まつりという呼び名の由来でもあります。
花御堂の中には灌仏桶または灌仏盤を置いて、その中央に誕生仏を安置します。灌仏桶や灌仏盤は盥のような器であり、誕生仏とはお釈迦様が生まれてすぐに右手で天を指し、左手で地を指して「天上天下唯我独尊」(この世に生きとし生ける者は誰もが皆独自の尊い存在である)と唱えた姿をかたどった像です。
灌仏の灌は「注ぐ」という意味であり、お釈迦様誕生の際、天上に九頭の龍が出現し、お釈迦様の頭上に甘露の雨を注いだという伝説に基づき、参拝者が誕生仏の仏頭に甘露の雨に見立てた甘茶を柄杓で注いで、お釈迦様の誕生日を祝する仏教行事が花まつりということです。参拝者にはこの甘茶を飲むことが、無病息災のご利益となるとされています。
そうしたことから、元々は灌仏会と呼ばれていたのですが、明治以降は花まつりという、よりくだけた言い方が一般的となりました。その他にも降誕会、仏生会、浴仏会、龍華会、花会式などといった別称もあります。
花まつりは幼稚園や保育園などでも盛んに行われます。そうしたところは、寺院の経営によるものが多いからで、園児達は可愛らしい声を大きく出して、お釈迦様に感謝の意を込めて、一生懸命に花まつりの歌を歌います。
また、園から駆り出された園児達が、皆古式ゆかしい衣装をまとい、顔に化粧を施して稚児行列を行います。神聖な証である白象とその背中にのせた花御堂の模型を引いて子供達が界隈を練り歩くのが花まつりの稚児行列の姿とされていて、園の行事とは別に地域で子供を募集して行うところもあります。
国際色豊かな名古屋のイベント
日本全国寺院と称するものが数多ある中で、それを都道府県別に見てみると愛知県に最も寺院が多くあるそうです。或る調査によれば、愛知県には約4500もの数の寺院があって、2位大阪府の約3300を大きく引き離しています。
そんな愛知県の名古屋市に、曹洞宗のとてもユニークな寺院があります。その名を徳林寺といい、名古屋市天白区に位置します。
徳林寺のある相生山緑地は、あたかも里山と錯覚するような、都会にあって自然が今なおそのまま残っているところです。徳林寺はその環境を生かすかのように、温室に雨水タンク、竈に工作室、畑に宿坊、更にはみんなの家と称する共同施設などを揃えていて、近隣住民はじめ多くの人達に開放しているのです。
このように元々人の寄り集まるところで、朝市もあったり、美術品や骨董品の展示会を催したり、コンサートを開いたりと、常日頃よりイベントには事欠かないのですが、その中のひとつが花まつりです。徳林寺は本場ネパールをはじめアジア諸国から多くの留学僧を受け入れていることもあって、仏教的には非常に国際色豊かであり、花まつりの行事も本格的なのかも知れません。
そうしたことから徳林寺の花まつりは、まるで海外旅行にでも行ったような気分になれて、楽しくて仕方ないそうです。その噂を聞きつけて、地元や近郊のみならず、はるばる遠方からも花まつり目当てに大勢の人が徳林寺にやって来るそうです。
そんな徳林寺の花まつりは、令和2年4月1日(水)から4月8日(水)までの8日間開催されます。日程は例年通りですが、2020年で38回目を迎える徳林寺花まつりは、毎年パワーアップされていること間違いありません。
この記事のまとめ
- 花まつりはお釈迦様の誕生日を祝う仏教行事であり、キリスト教行事のクリスマスと似ている。
- 花まつりでは花で飾った花御堂の内部に灌仏桶や灌仏盤を用意し、その中に誕生仏を安置してその仏頭に甘茶を注ぐ。
- 仏教系の幼稚園や保育園では花まつり行事として花まつりの歌を歌い、稚児行列を行ったりする。
- 名古屋市天白区の徳林寺では、国際色豊かな花まつりが満喫できる。
ちなみに南米のフォルクローレという民族音楽に「花祭り」という、わりと知られた曲があります。この曲の歌詞はスペイン語と先住民族のアイマラ語が混じったもので、何を歌っているのかはよく分からないものの、この曲を聴いているとどことなく空気の澄みわたった山間部の花園にでもいるかのような、とても幸せな気分になってきます。
しかしこちらもお釈迦様の花まつりとは一切関係がありません。ご参考まで。
それから名古屋市内には、昭和区にもうひとつ同じ名前の徳林寺がありますが、こちらの方は浄土宗で、上で紹介した徳林寺とは全く別の寺院になりますのでご注意下さい。とはいえ同じ仏教ですから、花まつりに関する何らかの行事は行われているとは思いますが、イベント色は多分前者に比べれば非常に薄いでしょうね。